眼の健康寿命を、延ばす。

アイケア研究所レポート VOL.1

2015年5月7日発行

特集1:眼の老化とその影響

「老眼鏡をかけると老眼が進む」「近視の人は老眼にならない」という話をよく聞きますが、それは何の根拠もない誤った認識です。老眼はどんな人にも老化によって起こる器質的障害のことで、早い人では35歳くらいから始まるものです。

なぜ、45歳から老眼用レンズ使用が急増する?

「老眼鏡をかけると老眼が進む」「近視の人は老眼にならない」という話をよく聞きますが、それは何の根拠もない誤った認識です。老眼はどんな人にも老化によって起こる器質的障害のことで、早い人では35歳くらいから始まるものです。下記のグラフからもわかるように、45歳から急激に老眼用レンズの使用が増えています。眼の老化を放置していると、身体の健康状態に影響を与えることはもとより、認知症や交通事故などさまざまなリスクも高まることも事実です。社会の高齢化が進む中で、老眼の早期チェックと対策がますます重要になってきています。

「レンズの購入形態」の年齢による変化

使用レンズの種類グラフ

引用:眼鏡DB2013

老眼のメカニズムとは

眼に入ってきた光は角膜を通り、カメラのレンズの役割を果たす水晶体を通って屈折し、眼球の奥にある網膜に到達します。そして、網膜でピントが合うように水晶体の厚さを調節しているのです。眼の屈折状態は、眼軸の長さと角膜・水晶体の屈折力によって決定されます。眼軸の長さが長すぎたり、短すぎたりすると遠くのモノが網膜にピントが合わなくなりますが、これを屈折異常と呼びます。その屈折異常の症状のひとつである遠視は、眼軸の長さが長すぎて網膜の後ろにピントが合ってしまうため、近くはより多くの調節を必要とするため見にくくなるものです。老眼と同一視されることがありますが、老眼は、老化による調節機能の低下によって調整できる範囲が少なくなり、近くが見えにくい眼のことであり、遠視とはまったく異なる症状です。

眼のしくみ

眼のしくみ

眼のしくみ

眼のしくみ

眼の老化に伴う、さまざまなリスク

眼の老化によって低下する概日リズム

オフィス女性イメージ網膜には、人間の概日リズム(いわゆる体内時計とよばれるもの)を整える働きをする細胞があります。この概日リズムは、光などによって毎日微調整され、日中は活力がみなぎり、夜には休養するために代謝を落とすなどの働きを約24時間周期でサポートするものです。そして、網膜の光受容体に届く光の量は、45歳で概日リズムを整えるための必要量の50%、55歳では37%、75歳では17%までに落ち込むという調査結果が発表されており、眼の老化は身体全体の老化に直接的につながっていることが示されています。

視力の衰えが転倒の原因に

高齢者の不慮の事故1位は「転倒」。その原因は、バランス能力の低下ですが、視力の低下が大きく関わっています。眼の焦点調節や動体視力、明暗順応などの能力低下によって平衡感覚が保てず、その情報が脳に伝わる時間もかかってしまい、さらに筋力や筋の収縮速度も低下しているため、倒れやすくなってしまうのです。視力は私たちが二足歩行を行うためのバランスを保つためにも大きな役割を担っています。

老眼が認知症を引き起こす

老眼が認知症を引き起こす高齢者の視力低下が認知症のリスクを上昇させる可能性があると米国の疫学雑誌で掲載されました。これはアメリカで71歳の高齢者625人を約10年間追跡したものですが、視力が「きわめて良い」「とても良い」と回答したグループは、他の回答をしたグループより認知症のリスクが63%低い、また眼科医を受診した経験があるグループは、未受診のグループよりリスクが約64%低いという調査結果が出ています。このデータから、視力が低下し、適切な治療や処置も受けていない高齢者は、さまざまな活動機会が大幅に減少し、脳の活性化につながる機会が失われ、認知症を引き起こしやすくなっていることが考えられています。老眼は、視力の問題だけではなく、高齢者の生活の質(=Quality of Life)をも左右する大きな課題のひとつとなっているのです。

認知症発症リスク

引用:「アピタル書下ろし」坪野吉孝

老眼によって交通事故のリスクも高まる

老眼によって交通事故のリスクが高くなることも見逃せません。65歳以上の交通事故者数は全国で19.2%を占め、10年前の1.9倍となっており、その理由は、脇見や考え事などをしていたために起こる「発見の遅れ」という調査結果(平成25年警視庁による)が出ています。高齢者ドライバーの身体的な特性として、クルマの運転に重要な①動体視力の低下、②視野が狭まる、③対象物と背景を見分けるコントラスト感度が低くなるということがあり、高齢者ドライバーには十分な注意が必要です。

高齢者が関与した交通事故発生状況

※高齢運転者とは、原付・二輪車・四輪車を運転する65歳以上の者をいいます。
引用:警視庁交通総務課統計(平成25年度中)

知っておきたい、老化による眼の症状

白内障や老化の原因となる糖化(AGE)とは

女性イメージ「糖化」とは、糖分とたんぱく質が結合した物質が加熱(体温程度の温度でも反応が起こる)され、AGEに変化する現象のこと。このAGE(Advanced Glycation End Products)は、肌や髪、骨、眼などの全身の老化を促進することがわかっており、動脈硬化、糖尿病、高血圧、がん、認知症などの原因ともされることから、今や全世界の研究者がAGE対策に取り組んでいるといいます。

眼の場合は、紫外線の影響で水晶体のクリスタリンというたんぱく質にAGEが生じることがあります。そして、水晶体は一生代謝しないことから、AGEが溜まり続け、白内障を引き起こしやすくなるのです。AGEは高血圧状態が続くと体内で多く合成されるため、規則正しい生活や栄養バランスの取れた食事、ストレスをためない…といったことが重要になります。最近では、AGE抑制には、山葡萄ポリフェノールの抗酸化作用が有効であることが認められているほか、眼のケアだけでなく、心身を健康に保つことやアンチエイジングも、眼の老化対策として注目されています。

白内障とは

白内障の危険因子白内障は、眼の中でレンズの役割を担う水晶体が濁り、網膜まで光が届かなくなり視力が低下する症状をいいます。白内障には80以上のタイプがありますが、多くは加齢による老人性白内障(加齢白内障)と呼ばれているものです。初期はこれといった症状は見られませんが、進行するに伴って、視界がぼやけたり二重三重に見える、光がまぶしく感じるといった症状が現れてきます。カメラのレンズに汚れやくもりがあるとぼやけて見えるように、眼の水晶体の濁りが光を反射させ、視界がぼやけて見えるようになってしまうのです。さらに進行すると、瞳の黒い部分が白っぽく見えるようになり、失明に至ることもあります。個人差はありますが、早い人では40歳くらいから始まります。初期であれば、点眼液で進行を遅らせることが可能な場合もあるので、早めの検診とケアをおすすめします。

眼の負担増によって増える、若い年代の眼の老化

近年、スマホやパソコンなどのビジュアルディスプレイターミナル(VDT)を使用する時間が増大する中で、眼の負担増大による眼の老化はますます若年化が進んでいるといわれます。すでに45歳以上で60%以上の人が老眼の症状を自覚しており、早い人では20代から眼の衰えを感じるケースも見られます。また、眼や脳がインターネットやゲームなどで昼間のような強い刺激をうけるため、視力が低下することはもとより、体内のリズムが崩れ、睡眠障害や自律神経の乱れを起こす原因ともなっているようです。

VDT作業における身体的な疲労や症状がある人の割合

【出典】厚生労働省 平成20年技術革新と労働に関する実態調査けっかの概況

なかでも注意が必要なのは、糖尿病性網膜症。これは初期の段階では、目のかすみや疲れを感じる程度なのに、ある日突然、網膜の血管が破れて大出血を起こすことがあるといわれ、失明の危険性もきわめて高いといわれています。自分では気づかないうちに糖尿病や糖尿病予備軍となっている場合があるため、ある日突然、極端な視力低下を感じるようなことがあれば要注意です。また、緑内障や白内障、加齢黄斑変性症や加齢性の網膜剥離など、眼の負担増による視力低下と共に進行が見られる疾患も若い年代に増えてきています。まだ若いから大丈夫…などとタカをくくることなく、少しでも眼の異変を感じたら、一刻も早く眼科を受診することをおすすめします。

45歳以上の老眼の自覚症状

高齢化社会における眼の健康の重要性

眼の国民医療費は1兆円

今や医療費は、国内総生産や国民所得を上回るペースで上昇を続けており、わが国ではどのように負担していくかを模索している状況にあります。とくに65歳以上の高齢者の医療費は、約30年の間に倍増しており(グラフ1参照)、社会の高齢化が上昇の一途を辿っていることを示しています。また、その中でも、眼病の医療費は1兆円を超えており(2012年度、グラフ2参照)、眼科は通院の中で3番目にランキングされています。とくに高齢者に多いとされる白内障の治療が高い割合を占めており、高齢者の眼の健康は大きな課題のひとつであることがわかります。そして、さらに視覚障害という観点から見ると、視覚障害によって社会に新たに発生する費用は年3兆円にも及び、健康障害分も含めると8兆8,000億円と試算されています。また、患者さん本人だけでなく、支える家族の負担など間接的な費用を生み出し、その額は眼科医療にかかる費用の1.6倍にも及ぶといいます(引用:日本眼科医会リーフレットより)。もはや眼の健康対策を放置することは、社会負担増対策を先送りにしているのと同じだといえるでしょう。

年齢別の医科診療医療費の推移

眼病の医科診療医療費の推移

まずは自分で始める老眼対策

老眼の自己チェックと対策

医療費は社会問題でもありますが、個人や家族の問題でもあります。もしかしたら老眼?眼の病気?そう感じたら、まず自己チェックを。そして1日も早い適切な処置が大切です。

自分でできる老眼チェック法

自分でできる老眼チェック法

眼年齢目安表

眼年齢目安表

自分に合った累進レンズを選ぶ

今、遠近両用メガネは、遠くから近くまで自然に見えるように度数を段階的に変えた「累進レンズ」が主流です。この累進レンズは、2つの度数(遠・近)とその中間の度数で構成されており、見たい距離に合わせてレンズのタイプを選ぶことができます。一般によく使われるのは、遠くから手元の新聞まで見える遠近両用レンズ。他に手元から3~5mの家事などの室内用にぴったりな中近レンズ、手元から1m先までよく見える、パソコンを使いながら資料を見たりするようなデスクワーク向けの近々レンズがあります。

自分のライフスタイルに合ったタイプのレンズを選ぶためには、まず、「何が見づらいのか」「何をするときに見たいのか」「1日にどれくらい使うのか」をメガネ店のスタッフに伝えることが大切です。また、レンズ選びで注意したいのは、すべてが「くっきり、はっきり」見えるようにすることが必ずしもいいとは限らないということ。遠くも近くもすべてのものをよく見えるようにと欲張ればそれぞれの見える範囲が狭くなり、慣れにくかったり、疲れやすくなったりする場合もあります。

累進レンズの主なタイプと特徴

できることなら、外出用に遠くを重視した遠近両用レンズ、細かいデスクワーク用には近々両用レンズと複数のレンズを使いこなすのが理想的といえるでしょう。累進レンズは、従来の遠近両用レンズのように境目がはっきり分かるものではないので、使いやすいだけではなく、老眼鏡は抵抗があるという初めての人にも受け入れやすいのも魅力のひとつです。また、老眼は60代半ばくらいまでは進むので、3回くらい買い換える人も多いそうです。すぐに合わないと決め付けたりせず、気長に慣れていくことも必要かもしれません。また、検査などの技術レベルが高く、保証などのアフターサービスが充実している“かかりつけ”のメガネ専門店を持つこともポイントのひとつといえるでしょう。

アイケア研究所とは

株式会社メガネスーパー(本社:東京都中央区日本橋、代表取締役社長:星﨑尚彦、以下メガネスーパー)は、 「眼の健康寿命を延ばす」を目的としたアイケアサービスの拡充を図るべく「アイケア研究所」を発足しました。

これは、核となるミドル・シニアを中心とした約600万人の顧客と、医療従事者、そして、多様な商品・サービスを提供する取引先をネットワークし、最先端アイケアの提供を目指すアイケアカンパニー・メガネスーパーの新しい取り組みのひとつです。

この「アイケア研究所レポート」では、毎月、注目度の高いテーマを取り上げ、みなさまに役立つアイケア情報をお伝えしていきたいと考えております。